回旋筋腱板(ローテータカフ)の基本的解剖と腱板損傷・断裂後のリハビリテーション

回旋筋腱板

肩関節の構造と肩のインナーマッスル

肩関節は、大きな可動域を得るために骨性の支持が少なく、筋肉や靭帯などの軟部組織による支持が多くなっていることが特徴です。

股関節も肩関節と同様のボールがソケットにはまり込んだような形状の球関節ですが、肩関節は関節窩が浅く運動性が優先された構造となっています。

そこで、肩関節の構造を考えるうえで外せないのが、肩のインナーマッスルである回旋筋腱板という筋群です。

体幹においても、インナーマッスルである横隔膜・腸腰筋・骨盤底筋群・腹横筋が重要であるの同様に肩の安定性を得るために回旋筋腱板の役割が重要となります。

 

 

回旋筋腱板(ローテータカフ)の役割

肩関節を安定させる構造には2つあります。

肩関節を安定させる機構

肩関節を安定させる機構

①静的安定化機構(static stabilizer)とは?

上腕骨頭・関節窩の形態・関節唇・関節包・関節上腕靭帯・関節内圧など。

*補足*
肩峰下インピンジメントの原因となりすいのは関節上腕靭帯の一つである
後下関節上腕靭帯(PIGHL)の硬さ。

 

②動的安定化機構(dynamic stabilizer)とは?

回旋筋腱板(ローテータカフ)、上腕二頭筋腱など。

回旋筋腱板の役割は②動的安定化機構(dynamic stabilizer)としての役割です。

上腕骨頭というボールを関節窩側からわしずかみにして、肩関節の動的な安定性を役割をもっています。

構造的に不安定な肩関節に対して、この回旋筋腱板が上腕骨頭を関節窩に押しつける力(求心力)を発生させます。
求心力が発生することで、骨頭の転がり運動が生じスムーズな肩関節の運動を可能にしています。

*補足*
肩のアウターマッスルである三角筋や大胸筋が回旋筋腱板よりも先行的に強く働いてしまうと、
適切な関節運動が成立せず、肩峰下インピンジメントなどの原因となる。

肩のインナーマッスルとアウターマッスルのバランスがとても大切。

 

回旋筋腱板を構成する筋肉

回旋筋腱板は4つの筋肉で構成されています。

①棘上筋(SSP):Supraspinatus muscle

棘上筋の筋腹は僧帽筋と肩甲骨肩峰の深層に位置し、遠位腱部は三角筋の深層に位置する。
腱板断裂・損傷の中で発生頻度の多い筋。

棘上筋解剖

棘上筋 版権: / 123RF 写真素材

【起始(近位付着部】
 肩甲骨棘上窩

【停止(遠位付着部】
 上腕骨大結節
 上腕骨小結節

【上腕骨に対する運動作用】
・上腕の外転
・上腕の屈曲

【上腕骨頭に対する作用】
・上腕骨頭を上方へ滑らせる

【神経支配】
 肩甲上神経

 

②棘下筋(ISP):Infraspinatus muscle

棘下筋は肩甲骨後面に位置する平らな筋。棘下筋の大部分は三角筋の深層にある。

棘下筋解剖

棘下筋 版権: / 123RF 写真素材

【起始(近位付着部】
 肩甲骨棘下窩

【停止(遠位付着部】
 上腕骨大結節

【上腕骨に対する運動作用】
    上腕の外旋

【上腕骨頭に対する作用】
 上腕骨頭を下方へ滑らせる

【神経支配】
 肩甲上神経

 

③肩甲下筋(SSC):Subscapularis muscle

肩甲下筋は、前鋸筋に沿って肩甲骨と胸郭の間に位置する。前鋸筋は胸郭に沿って走行にするのに対して、肩甲下筋は肩甲骨と上腕骨に沿って走行する。

肩甲下筋解剖

肩甲下筋  版権: / 123RF 写真素材

【起始(近位付着部】
 肩甲骨肩甲下窩

【停止(遠位付着部】
 上腕骨小結節

【上腕骨に対する運動作用】
     上腕の内旋

【上腕骨頭に対する作用】
 上腕骨頭を下方へ滑らせる

【神経支配】
 上・下肩甲下神経

 

④小円筋:Teres minor muscle

小円筋は棘下筋と並走した小さな円筒形の筋。棘下筋と大円筋の間に位置する。
小円筋の大部分は三角筋の深層にある。

小円筋解剖

小円筋 版権: / 123RF 写真素材

【起始(近位付着部】
 肩甲骨棘下窩

【停止(遠位付着部】
 上腕骨大結節

【上腕骨に対する運動作用】     
   上腕の外旋

【上腕骨頭に対する作用】
 上腕骨頭を下方へ滑らせる

【神経支配】
 腋窩神経

 

*補足*
英語名の成り立ち。
腱板筋は略語で示されることがありますので、覚えておくと役立ちます。
ラテン語
・Supraspinatus:棘上
・Infraspinatus:棘下
・Subscapularis:肩甲下窩
・Teres:丸い
・minor:小さい

 

 

棘上筋と棘下筋の停止部の位置関係

棘上筋・棘下筋ともに停止部はどちらも停止部は上腕骨の大結節とされていますが、実際には大結節には棘下筋が広範囲に付着しています。

腱板2.001

従来、腱板については大結節の上前方に棘上筋・上後方に棘下筋ぞれぞれ付着するといわれ、腱板損傷や上腕骨近位端骨折の運動療法においてもそれらをもとに運動の誘導や抵抗の方向が考えられてきた。

これに対し東京医科歯科大学解剖教室グループの望月らは、棘上筋は大結節前方の狭い領域に集中して付着し、その21%は小結節に付着すること、棘下筋は大結節の広範囲に付着し、前方は結節間溝の近くにまで達することを報告した。

*引用:浅野照裕  「運動療法に役立つ単純X線像の読み方」 

棘上筋と棘下筋

棘上筋・棘下筋の停止部

上記の点を考慮すると、上腕骨大結節骨折におけるリハビリテーションをする上では大結節の広範囲に付着する棘下筋に着目したアプローチが重要になってくると考えられます。

また、棘上筋のトレーニングやストレッチをしてゆく際には棘上筋が小結節にも停止していることを考慮することも必要です。

一般に棘上筋の作用は肩関節外転であるとされてきたが、その停止部が大結節の前方にとくに強いことから考慮すると、肩外旋位では外転作用が、内旋位では屈曲・内旋作用が強まるのではないかと水推測される。
*引用:二村照元ら「形態解剖からみた腱板の機能」 関節外科 Vol.31 No.7(2012)

 

腱板損傷・断裂の原因

腱板断裂は60歳以上では加齢に伴う腱板変性を基盤とした完全断裂が多く、10~30歳代の若年層ではスポーツに関連する不全断裂が多いとされています。

*40歳代の健常者の34%に無症状性断裂があるという報告もあります。

肩峰下インピンジメントとは?

肩関節を動かすときに、肩のつまり感や痛みが生じることがあります。
この原因として「肩峰下インピンジメント」というものがあります。

肩関節の屈曲・外転などの挙上運動時に肩峰と烏口肩峰靭帯からなる烏口肩峰アーチと肩峰下滑液包、回旋筋腱板、上腕二頭筋腱などが強く接触して押し潰されたり、引っかかったりすることで痛みを生じます。

肩峰下インピンジメント

肩峰下インピンジメント

腱板断裂と肩峰下インピンジメントの関係

肩峰下インピンジメントを何度も繰り返していると、腱板には上記したように機械的なストレスが加わり続けてしまうため腱板損傷・断裂の原因となります

特に棘上筋がこれにより損傷を受けやすいとされています。

さらに、腱板がダメージを受けていると肩関節運動がバランスよく行えなくなってしまうため肩峰下インピンジメントが起こりやすくなってしまうという悪循環を生じる可能性がでてきます。

【肩峰下インピンジメントについて詳しく知りたい方はこちら】

肩峰下インピンジメントの原因は?肩関節拘縮と肩甲骨の安定性を中心にまとめてみた。

2016.01.22

 

 

腱板損傷・断裂したら手術が必要?

必ずしも腱板損傷・断裂=手術ではありません。
手術せずに保存療法で対応することも可能です

なぜでしょうか?

以下にその理由を文献を参考にしながら考えてみます。

 

 

回旋筋腱板の作用と腱板損傷・断裂後のリハビリテーション

腱板断裂・損傷後のリハビリテーションについて、回旋筋腱板の作用から考えてみます。

回旋筋腱板は上腕骨頭を関節窩に押しつける力(求心力)を発生させる作用があると冒頭で説明をしました。

ただし、腱板筋群は求心性の作用だけではなく上腕骨頭を上下方向へ滑らせる作用もあるとされています。

腱板筋群すべてが上腕骨頭を同方向へ滑らせるわけではなく、棘下筋・小円筋・肩甲下筋が下方に滑らせる筋(depressor)であるのに対し、棘上筋は上方へ滑らせる筋(elevator)である。

それゆえ、棘上筋が断裂してしまっていても上腕骨頭を下方へ引く作用が弱まるわけではないため、著明な上腕骨頭の上方化は見られない。

以上のことより、腱板の断裂があっても残存しているdepressorの筋力トレーニングを行うことが推奨されている。

*引用:村木孝行 「肩腱板損傷に対する筋力トレーニングのあり方」理学療法30巻9号  2013年9月

棘上筋損傷

棘上筋損傷に対するリハビリのポイント

上記の文献からの考察。
棘上筋断裂・損傷後に対する保存療法の場合でもリハビリテーションは必須です。

棘下筋・肩甲下筋・小円筋の機能を十分に発揮させるようにしてあげれば、肩関節の安定性は確保できる可能性があると考えられます。

その結果として、肩峰下インピンジメントの発生を軽減できれば運動時痛を抑えることができるので保存療法で対応ができる場合があります。

 

ただし、棘上筋が機能低下していることには変わりありませんので全体的な筋力回復は手術療法のほうが期待できます。

 

 

補足:回旋筋腱板のトレーニング方法について

腱板のトレーニングといえばセラバンドを使用した方法が有名ですが、実際にはセラバンドでは過負荷な場合があります。

過負荷だとアウターマッスル優位となってしまい、結果として腱板を適切に働かせることができません。
代償動作に注意をして行うことが非常に大切です。

そんな場合は輪ゴムを使用して指導をします。
輪ゴムはセラバンドよりも低負荷であり、数を増やしたり減らしたりも簡単なので難易度調整がしやすいです。
また、輪ゴムは自宅に大抵はあるものなので自主トレの手段としても有効だと思います。

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