呼吸困難感を軽減させる2つの方法【呼吸器疾患に対するリハビリテーション】

なぜ呼吸困難感を生じるのか?

動くと呼吸が苦しい

慢性閉塞性肺疾患(COPD)を代表とする呼吸器疾患の患者さんにおいて、主訴の多くが(最も困っていること)「呼吸が苦しい」ということです。

動くと息がすぐに苦しくなってしまい、動けなくなってしまう。

症状の重い方であれば、安静にしていても呼吸が苦しくなってしまうため酸素療法が必要ば場合もあります。

では、この「呼吸が苦しい」と感じる呼吸困難感はなぜ生じるのでしょうか?

呼吸困難感のメカニズム

呼吸困難感におけるメカニズムは複雑です。
その患者さん個人の主観的な感覚であり完全には解明されていないとされています。

ただ、幾つか呼吸困難感における説があります。

①モーターコマンド説:
呼吸筋が動くと呼吸困難と感じる。
つまり、たくさん呼吸をして呼吸筋が頑張って働くことで脳が苦しい状態であると認識する。

②化学受容器による感知:
血液ガス(血液中の酸素や二酸化炭素)に変化が生じると、その情報が化学受容体から、呼吸中枢に伝わり、呼吸リズムは深さをかえることで換気量を増減させて調整をしている。

 

【化学受容器は2種類ある】

  存在部位  主に感知する変化
中枢性化学受容器 脳の延髄  動脈血二酸化炭素分圧(PaCO2)の上昇
末梢性化学受容器  頚動脈小体
大動脈小体
 動脈血酸素分圧(PaO2) の減少

*日常的には中枢性化学受容器が働いている。
→動脈血二酸化炭素分圧(PaCO2)の上昇で呼吸困難感を感じている。

 

二酸化炭素が増えると呼吸困難感を感じやすくなる

上記のように、通常は二酸化炭素の上昇で中枢性化学受容器が反応して呼吸を促進しています。

呼吸運動が促進されるということは、呼吸筋が頑張って働くことになります。

呼吸筋が頑張るとモーターコマンド説の視点から、さらに呼吸困難感が強くなると考えられます。

つまり、血中の二酸化炭素が増えることが呼吸困難感を増強させる大きな原因の一つであると考えられるのです。

 

 

呼吸困難感を軽減する方法①
〜呼吸の練習をする〜

*呼吸困難感の主な原因が二酸化炭素の蓄積であるという視点で軽減させる方法について考えてみます。

シンプルに考えてみましょう。

本来の呼吸の目的は換気です。

息を吸って酸素を体内に取り入れて、身体活動に必要なエネルギーを作り出し、息を吐いて二酸化炭素を体内から外へ出すという活動です。

つまり、深い呼吸ができるようにすることで酸素をたくさん取り入れてしっかりと二酸化炭素を吐き出すことができるようになります。

息を深く吸えるようにする

息を吸う動作において、最も重要なのが横隔膜です。

横隔膜が最初に収縮をすることで、胸腔内に空気がスーッと入ってきます。
まずは横隔膜をしっかりと使えるようにすることが基本です。

横隔膜を使った呼吸で代表的なのが腹式呼吸。

鼻から吸って、胸を膨らますのではなくお腹を膨らます呼吸方法です。

お腹が膨らませる腹式呼吸

お腹が膨らませる腹式呼吸

腹式呼吸については動画を使用しながら下記で詳しく説明をしていますので参照してみてください。

【腹式呼吸の基本的な方法とコツ】呼吸はリハビリにも使える素晴らしい自主トレーニング

2016.04.24

 

息をしっかりと吐けるようにする

息をしっかりと吐く=二酸化炭素を体外にたくさん出す

慢性呼吸器疾患の代表であるCOPDは、閉塞性換気障害といって息を吐くことが苦手になる病態です。

下の図のように、気道(空気の通り道)が狭くなってしまっているためです。

COPDの病態

COPDの病態  版権: / 123RF 写真素材

このような病態の場合には、頑張って力いっぱいに息を吐く練習をすればよいというわけではありません。

少し工夫が必要なのです。

「口すぼめ呼吸」といって口先を小さくして、ゆっくりと長く息を吐くようにします。

この呼吸方法をすることによって、COPDのような方でも通常の呼吸方法よりも息をしっかりと吐きやすくなります。

口すぼめ呼吸の詳細については下記で説明をしていますので、参照してください。

「口すぼめ呼吸」の方法・目的・効果【COPDに対するリハビリテーション】

2016.06.24

 

呼吸困難感を軽減する方法②
〜筋肉のエネルギー代謝効率を高める〜

呼吸器疾患で多いのが「動くと息がすぐに上がってしまう」という症状です。

これはなぜでしょうか?

身体を動かすというのはエネルギーを作り出す必要がありますが、エネルギーの作り出す方法に着目をしてみましょう。

有酸素エネルギー産生と無酸素性エネルギー産生

筋肉を動かすために必要なエネルギーであるATPの産生方法について理解をしておくとよいです。

いかに効率よくATPを作りだせるかということがポイントとなります。

効率よくATPを作り出す方法が、酸素を使用した有酸素代謝(有酸素エネルギー産生)です。

しかし、運動強度が高くなり有酸素代謝だけではATPの産生が賄えなくなると、解糖系という酸素を使わずにエネルギーを産生する方法も使い始めます。

この解糖系という無酸素代謝(無酸素エネルギー産生)は不足したATPを補ってくれる大切な存在なのですが、これによって乳酸が発生します。

この乳酸を緩衝するために二酸化炭素が増加します。

 

無酸素エネルギー産生に頼らないようにしたい

無酸素エネルギー産生が加わると、もともと有酸素エネルギー産生で発生する二酸化炭素に加えてさらに二酸化炭素の発生が増加してしまいます。

二酸化炭素が増加すれば、中枢性化学受容器が反応して呼吸運動(換気)が促進されます。

結果として、「呼吸困難感」が増強することにつながります。

つまり、動作時の呼吸困難感を軽減させるには無酸素エネルギー産生にできるだけ頼らないように筋肉のエネルギー代謝効率を高めることがポイントと考えられます。

では、筋肉のエネルギー代謝効率を高めるにはどうしたらよいのでしょうか?

その前に、呼吸器疾患の骨格筋の特徴について理解しておく必要があります。

 

 

慢性呼吸器疾患の骨格筋の特徴

筋肉のエネルギー効率の低下は、呼吸困難感の増強につながることを説明しました。

これは、慢性呼吸器疾患の骨格筋の筋繊維の構造に異常が生じていることが原因の一つです。

骨格筋にはType1線維とType2線維があります。

Type1線維(遅筋線維・赤筋線維):有酸素代謝に適している

Type2線維(速筋線維・白筋線維):無酸素代謝で動員される

 

慢性呼吸器疾患の患者さんは、病態の影響によってType1線維が優位に減少してしまう傾向にあります。

つまり、骨格筋の構造自体に変化が起こり有酸素エネルギー産生能力が低下してしまっているのです。

結果として、低い強度の運動でも容易に無酸素エネルギー産生をする方法に頼ってしまうため二酸化炭素が増加しやすく呼吸困難を生じやすくなります。

 

運動療法をすることが呼吸困難感を軽減させる

運動療法が大切

運動療法が大切

運動療法のエビデンス

運動をすると呼吸が苦しくなってしまうのに、運動をすることが呼吸困難感を軽減させるというのは一見矛盾しているような気がしますね。

しかし、呼吸器疾患において運動療法は非常に重要な役割を果たしています。

呼吸リハビリテーションのうち、患者の呼吸困難、運動耐容能、QOLを改善することにおいて明確なエビデンスが得られているプログラムは、全身持久力、筋力トレーニングといった運動療法である。

2007年に発表されたACCP/AACVPRのガイドラインにおいても、COPDのリハビリテーションにおいて有用性が示されているのは運動療法のみである。

特に下肢筋の運動トレーニング・筋力トレーニングがエビデンスAとされている。

*引用:参考文献1)

 

運動療法で有酸素エネルギー産生の効率を上げる

運動療法をするとなぜ呼吸困難感が軽減するのでしょうか?

その理由の一つとして適度な運動療法をすることによって、上記のような骨格筋の機能異常が改善されるためであると考えられています。

骨格筋の機能異常に関しては、運動療法を行うことによる
1)筋力の増加
2)Ⅰ型筋線維の増加
3)毛細血管の増加
4)酸化酵素の増加および運動時の乳酸産生の減少
が報告されている。

*引用:参考文献1)

運動療法を行うことが有酸素エネルギー産生の効率を上げることにつながり、運動時の二酸化炭素の増加を抑えることができます。

結果として、運動時の呼吸困難感が減少する。

すると、さらに運動がしやすくなるといった良い循環が生まれてきます。

 

まとめ

呼吸困難感を軽減するポイント

・呼吸困難感は動作時の二酸化炭素の増加が原因の一つ

・呼吸困難感を軽減するには、二酸化炭素の増加を抑制することがポイント。

 

呼吸困難感を軽減する2つの方法

①呼吸方法を練習する。
目的:二酸化炭素を効率よく吐くこと。
とくにCOPDの場合は「口すぼめ呼吸」をすると良い。

②運動療法をする
目的:骨格筋の機能異常を改善すること。
その結果、有酸素エネルギー産生の効率を高め二酸化炭素の増加を抑制することができる。

 

参考文献

1)濱田泰伸ら:「慢性閉塞性肺疾患における呼吸リハビリテーションの重要性と現状」広大保健学ジャーナル Vol10 2011

2)宮下正好:呼吸リハビリテーションにおける運動療法の理論

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