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「SpO2」は何を調べているのか?
医療の現場だけでなく、在宅の現場でもSPO2の値は呼吸状態を評価する指標としてよく利用されています。
パルスオキシメーターという形態性に優れている簡易的な装置を使用することでいつでもチェックすることができます。
しかしながら、SpO2 の値に一気一憂しすぎるのもよくありません。
パルスオキシメーターで測定できる値は必ずしも正確ではありませんので、参考値として使用すべきです。
では、SpO2が低いということは何を示すのでしょうか?
簡潔にまとめると「身体に酸素が足りない状態」と一言で説明することはできますが、そもそもSPO2は何を調べているのでしょうか?
身体にはなぜ酸素が必要なのか?
SpO2が何を意味しているのかという点を考える前に、もっと基本的なことを理解しておきましょう。
身体にとって酸素が必要なのはなぜでしょうか?
酸素がないと生きていけないのはなぜでしょう?
人の生命維持において酸素は必須なのですが、酸素を使用して人の身体活動に必要なエネルギーであるATPをミトコンドリアで産生ために酸素が必要なのです。
よって酸素が足りなければ、ATPが産生できなくなってしまう。つまり、生命活動ができなくなってしまうことになります。
重要なのは大気から呼吸によって体内に取り込み、それを血液によって酸素を必要としている組織に送り届けることなのです。
これを図に示したのがワッサーマンの歯車というものです。
酸素はヘモグロビンと結合して運ばれる
上記したように酸素は血液循環によって運ばれます。
血液中には様々な成分がありますが、ヘモグロビン(Hb)という成分がカギとなります。
そしてSpO2を理解する上で、「酸素は血液中のヘモグロビンと結合して運ばれる」という点が重要なポイントです。
これをわかりやすくイメージするために、ワッサーマンの歯車と少し似ていますが、少し切り口をかえてみましょう。
酸素は組織に送り届けたい大切な荷物です。
酸素という大切な荷物を船を使って遠くの島へ届けたいということをイメージします。
・酸素=荷物
・船=Hb(ヘモグロビン)
・川=血液循環
・島=組織
短時間でできるだけたくさん荷物を運ぶためにはどうしたらよいでしょうか?
いくつか作戦を上げてみましょう。
①荷物を多く用意する
②船を多く用意する
③船に多く荷物を乗せる
④川の流れ・勢いを速くする
荷物と船が多くあって川の流れが速ければ島に短時間で多くの荷物を運べることになりますね。
要するに、酸素とHbの量が多くあって、かつ上手に酸素とHbが結合して、血液循環が十分であれば組織に酸素を送り届けることができるのです。
逆に考えれば、酸素がいくら沢山あってもHbが少なければ運べなくなってしまうのでダメなわけです。
さらに、船に荷物を十分に積めなければ(酸素とHbの結合がしっかりできていなければ)効率よく組織には届けられません。
SpO2はヘモグロビンとの結合の割合を調べている
SpO2 =経皮的動脈血酸素飽和度
SpO2は「動脈血中に存在しているヘモグロビン(Hb)が酸素(O2)とどの程度結合しているか?」
をパーセントで表示したものです。
上記の例えで考えると、「船がしっかりと酸素を乗せているかどうか?」という部分を調べているのです。
SpO2は経皮的動脈血酸素飽和度とも言います。
S:Saturation(サチュレーション・飽和度)
P:Percutaneous(経皮的)もしくはpulse oximetry(パルスオキシメーター)
O:Oxygen(酸素)
酸素飽和度とは何か?
パルスオキシメーターを使用してヘモグロビンと酸素の結合の割合を調べているのがSpO2(経皮的動脈血酸素飽和度)です。
では、酸素飽和度とは何でしょうか?
ヘモグロビンは1分子当たり4つの酸素分子を結合する能力があります。
酸素と結合したヘモグロビンを酸化ヘモグロビン(HbO2)、酸素と結合していないヘモグロビンを
還元ヘモグロビン(Hb)と呼びます。
ヘモグロビンにとっては、酸素がついていないか、あるいは酸素が4個ともついている状態が安定しており1個、2個、3個しかついていない組み合わせは非常に不安定です。
そのため実際には、酸素が1つもついていない還元ヘモグロビン(Hb)の状態か、酸素が4個ともついている状態での酸化ヘモグロビンとなります。
引用:http://www.konicaminolta.jp/healthcare/knowledge/details/living.html
酸素飽和度は式に表すと上記の図のようになります。
式にすると少し難しく感じてしまいますが、
要するに「血液中のヘモグロビン全体の量に対して酸素と結合している酸化ヘモグロビンの数がどれくらいあるのか?」
ということを示しています。
SpO2/SaO2との違いは?
SpO2の「p」は経皮的にパルスオキシメーターで計測ができる値であることを示しています。
そのため「経皮的動脈血酸素飽和度」なのです。
一方で、SaO2の「a」はarterial(動脈)に由来しており、これは血液検査によって調べる「動脈血酸素飽和度」を示しています。
血液検査をしてSaO2が調べられればそれが一番いいですが毎回針を刺して検査するわけにはいきませんよね。
そのため、非侵襲的に経皮的に調べられるSpO2の値を評価として用いるのです。
SpO2とSaO2はほぼ同じ値を示すため、
SpO2が適切に計測できていれば結果的に動脈血酸素飽和度は評価できているということになります。
ただし、パルスオキシメーターは経皮的であるため誤差が生じやすく、必ずしも正確な値が計測できるわけではないという点を理解しておく必要があります。
SpO2の正常値は?
正常ではヘモグロビンの96%〜99%が酸素と結合していますので、SpO2の正常値は96%〜99%となります。
下の図のようにSpO2:100%というのは血液中のHbが全て酸素と結合している酸化Hbの状態です。
一方で、SpO2:60%の状態では血液中のHbの5分の3(60%)が酸素と結合しているが、残りの40%
は酸素と結合していない還元Hbであるということです。
SpO2は存在するHbに対して酸素の結合している割合をみているわけですから、そもそもHbの量が少ない場合には注意が必要です。
つまり、貧血の場合はSpO2の値が高くても十分な酸素が組織に運べていない可能性があります。
SpO2の危険な値は?
90%未満の場合は危険
SpO2の正常値は96%〜99%ですが、それ以下になると酸素とHbの結合が不十分であり酸素が組織に十分に運べなくなってしまうということ意味します。
特にSpO2が90%未満になると呼吸不全の状態になり、この状態が継続的に続いてしまうと心臓や脳など重要な組織に十分な酸素が供給することができなくなり障害を起こす可能性が高まります。
PaO2とSpO2の関係
血液中に溶ける酸素の量は動脈血酸素分圧(PaO2)に比例します。
ヘモグロビンに結合する酸素の量もPaO2が高くなれば増えやすくなる傾向にあります。
・SpO2(%):経皮的動脈血酸素飽和度
・SaO2(%):動脈血酸素飽和度
・PaO2(mmHg):動脈血酸素分圧
注意すべきは、ヘモグロビンに結合する酸素の量はPaO2の値と比例関係ではないという点です。
図にすると S字上の曲線を描きます。
この図を「酸素解離曲線」と言います。
*上図は縦軸がSaO2となっていますがSpO2の値と考えてください。
酸素解離曲線ではSpO2の値が90%の時はPaO2が60mmHg未満となる関係性にあり、SpO2:90%未満だと呼吸不全の診断基準に該当します。
まとめ
・身体活動にとって、酸素は必須である。
・組織に必要な酸素はヘモグロビン(Hb)と結合して運ばれる。
・SpO2は酸素とHbの結合している割合を経皮的に調べている。
・SpO2は90%未満になると要注意
これを理解しておくと、呼吸・循環の関係がイメージしやすくなります!
【酸素の取り込みと消費の流れ】
①呼吸によって、酸素を体内に取り込む
②肺で血液を酸素化する(動脈血に酸素を取り込む)
③血液循環(心臓のポンプ作用)によって骨格筋などの組織へ酸素を含んだ血液を届ける
④各組織で酸素を消費してエネルギーを産生。
⑤エネルギー産生にて発生した二酸化炭素を排出