AT(無酸素性作業閾値)レベルを高めるには?〜VO2max(最大酸素摂取量)との関係〜

AT(無酸素性作業閾値)とは

Anaerobic Threshold:AT(無酸素性作業閾値)は

「運動の強さを増していくとき、筋肉のエネルギー消費に必要な酸素供給が追いつかなくなり、血液中の乳酸が急激に増加し始める強度の値」

とされています。

呼吸・循環のリハビリテーションやトレーニングを実施してゆく上で、この ATレベルというのはとても重要なポイントです。

乳酸が急激に増加し始めるということは、有酸素代謝中心から無酸素代謝が加わってエネルギーを産生し始めるということです。

つまり、その人のATレベルを超えた運動というのは身体にとってやや負担となっており長時間の継続は困難なレベルの運動ということになります。

有酸素運動能力を高めるにあたっては、ATレベル以下の運動負荷量を実施してゆくことが望ましいとされています。

また、リハビリテーションなど高齢者や疾患のある方を対象に運動指導をする場合にもこの「ATレベル以下の負荷量」という点は同様に重要となります。

 

 

VO2 max(最大酸素摂取量)とは?

最大酸素摂取量とは、いわゆる「体力」の指標です。

有酸素運動の能力を反映し、長時間の最大限下の運動の持久性の指標(運動耐容能)となります。

最大酸素摂取量=単位時間あたり組織が酸素を取り込む最大の量

VO2 max
・V = 量(volume)
・O2 = 酸素
・max = 最大限(maximum)

運動を開始すると身体が必要とする酸素量が増えていきます。

そして、徐々に運動負荷が上がるにしたがって必要とする酸素が増えて、ある一定の負荷量に達すると身体の酸素需用量と供給量が一致するポイントがあります。

さらに、それ以上に運動をし続けてしまうと需要が供給を上回ってしまい運動継続できなくなってしまいます。

この時の最大の値が最大酸素摂取量(VO2max)となります。

 

最大酸素摂取量(VO2max)を求める式

イメージがややつきにくいですが、最大酸素摂取量を求める式を理解するとわかりやすくなります。

これはFick方程式で定義されており、以下の式で求めることができます。
「VO2max=Q×(CaO2−CvO2)」
「最大酸素摂取量=心拍出量×動静脈酸素較差」

ちょっとここでわかりにくいのが、動静脈酸素較差という部分。

動静脈酸素較差=動脈血酸素含有量  (CaO2)     -静脈血酸素含有量 (CvO2)

・動脈血酸素含有量 (CaO2):動脈血液中に含まれている酸素の量
・静脈血酸素含有量 (CvO2):静脈血液中に含まれている酸素の量

 

動静脈酸素較差を高めるには?

最大酸素摂取量

最大酸素摂取量

最大酸素摂取量を高めるためには動静脈酸素較差を高めることが必要です。

ではどうしたら動静脈酸素較差を高められるのでしょうか?

動静脈酸素較差=動脈血酸素含有量  (CaO2)     -静脈血酸素含有量 (CvO2)

ですから動脈血酸素含有量  (CaO2) の値を大きくして、静脈血酸素含有量 (CvO2)の値を小さくすればよいわけです。

 

 

動脈血酸素含有量 (CaO2) とは?

動脈血液中に含まれている酸素の量のことで以下の式で定義されています。

CaO2=(1.34×Hb×SaO2)+ (0.003×PaO2)

つまり、動脈血酸素含有量  (CaO2) の値を高くするにはSaO2とHbの値を高めることが必要ということになります。

SaO2(動脈血酸素飽和度):酸素とHbの結びついている割合
Hb(ヘモグロビン):酸素を運搬する

※参考記事:

SpO2(経皮的動脈血酸素飽和度)の測定は何を調べているのか?

2016.07.14

 

静脈血酸素含有量 (CvO2)とは?

静脈血液中に含まれている酸素の量のことです。

ヘモグロビンが酸素を運ぶ

ヘモグロビンが酸素を運ぶ

肺で酸素化された動脈血は各組織へ運ばれ酸素を供給します。

そして、組織で酸素が消費された後は静脈で再び心臓へ戻ってゆくわけです。

組織で酸素が適切に消費されていれば、静脈血液中に含まれる酸素の量は一定量減少しているはずです。

補足
静脈血酸素飽和度(SvO2)の正常値は75%程度であるとされています。
ちなみにSaO2は動脈血酸素飽和度のことで正常は99%~96%ですね!

通常は動脈から静脈へ移行する際にヘモグロビンと結合している酸素が25%程度組織の方へ供給されているということです。

SvO2は高すぎると組織への酸素供給が効率よく行えていないということになります。

最大酸素摂取量を高めるという観点から考えれば、運動負荷時に効率よく組織に酸素供給が行えている必要があるため静脈血酸素飽和度(SvO2)の値が低くなることが望ましいということです。

 

 

ATとVO2maxの関係

通常、ATはVO2maxの50~60%程度とされています。

※ATのVO2maxに対する割合は人によって異なります。

ATと最大酸素摂取量

ATと最大酸素摂取量

 

 

100m走とマラソン

100m走は無酸素運動の代表例です。
100m走の速度でマラソンは走れませんよね。

無酸素運動は力の発揮する速度は高いですが、持続性が低いためです。

100m走はいきなりATレベルを超えた状態での運動を継続するわけですから、すぐに乳酸が蓄積してしまいます。

一方でマラソンは数時間一定の速度で走ることができます。

マラソン選手の走る速度はかなり速く、普通の人だと頑張って走らないとその速度に達することができません。

ではなぜ、長時間も一定の速度を維持できるのでしょうか?

それはトレーニングによってATに達するレベルが一般の人よりも高いためです。
もちろん、全体的な最大酸素摂取量も高いレベルにありますがATレベルを上げておくことで、長時間の有酸素運動を可能としているのです。

最大酸素摂取量はトレーニングしても15~20%程度しか増加しないのに対し、
ATレベルはトレーニングによって30~40%増加するとされています。
※参考文献:体力の指標

 

 

COPD(慢性閉塞性肺疾患)の場合

COPDの病態

COPDの病態

リハビリテーションの現場で、COPD(慢性閉塞性肺疾患)という肺の病気の人の運動療法を指導する場合があります。

COPDの特徴は動くとすぐに呼吸が苦しくなってしまうという点です。

最大酸素摂取量(運動耐容能)が低下しているということが問題となるのですが、それよりもATレベルが低下しているという部分が問題なのではないかと考えられます。

COPDは骨格筋の有酸素代謝能力が低下しており、早い段階で無酸素代謝を発動させてしまうという病態的な特徴があります。

この点については下記の記事で説明をしています。

呼吸困難感を軽減させる2つの方法【呼吸器疾患に対するリハビリテーション】

2016.06.24
COPDの場合

COPDの場合

つまり、運動療法において重要なのは骨格筋の有酸素能力を高めてATレベルを上げるということになります。

 

まとめ

AT(無酸素性作業閾値)は有酸素代謝中心では耐えきれなくなり無酸素代謝を利用し始めるポイント

VO2max(最大酸素摂取量)は運動を持続する上で最大の酸素需要と供給が一定になるポイント

・骨格筋の有酸素代謝能力が低いとATレベルが低くなる。

・ATレベルを高めるとマラソン選手のような高いレベルのパフォーマンスが長時間行えるようになる。

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