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誤嚥しやすくなる典型的な姿勢
嚥下機能(飲み込みをする機能)において姿勢はとても重要です。
姿勢の良し悪しで嚥下機能に大きな影響を与えるので、誤嚥予防のための姿勢管理という視点が大切です。
では、誤嚥しやすくなる姿勢とはどのような状態でしょうか?
誤嚥しやすい典型的な姿勢があります。
それはいわゆる猫背姿勢で、顎が上がったような姿勢です。
姿勢を側方から観察した場合、頭部が前方にシフトし、胸椎が後弯・さらに肩甲骨が外転位になる姿勢です。
Forward head姿勢とも言われます。
多くの高齢者はこのような姿勢になっていますので、高齢者は姿勢の影響から誤嚥しやすい状態になっていると考えれます。
若い人でも猫背姿勢の人は非常に多く、将来的にトラブルになる可能性があります。
なぜ姿勢が悪いと誤嚥しやすくなるのか?
上記のような典型的な猫背の不良姿勢は誤嚥するリスクを高めます。
その理由を大きくわけて2つ挙げます。
①頚部が伸展して顎が上がっている
↓
気道を広げる姿勢で食べ物や飲み物が気道に流入しやすい
②嚥下筋が働きにくい状態になる
↓
嚥下機能が低下するので、誤嚥しやすくなる
上記の2つの中で今回は②の不良姿勢と嚥下筋の機能不全について掘り下げてみようと思います。
*特に、嚥下筋の中で重要とされている舌骨上筋群と姿勢の関係性に着目をします。
なぜ猫背・顎上がり姿勢になるのか?
「嚥下筋と姿勢の関係性」の前に、まずはなぜ顎上がり姿勢になるのか?を考えてみましょう。
不良姿勢の代表である、顎上がり姿勢は上位交差性症候群で説明をされることが多いです。
上位交差性症候群(Upper Crossed Syndrome)とは?
姿勢は脊柱のアライメントがベースとなります。
本来は生理的なS字カーブを保つことが理想的ですが、徐々に崩れていってしまうことが多いのです。
脊柱の機能に関係する筋肉は、筋力低下をきたしやすい筋肉と短縮をまねきやすい筋肉があり、筋肉の弱化・短縮・過活動により姿勢の特徴的な変化をもたらします。
猫背で顎が上がったような不良姿勢は、これらの筋肉の特性の結果として現れてくるいうことを説明したものが上位交差性症候群です。
猫背・顎上がり姿勢になる原因
上位交差性症候群のような筋肉のアンバランスによって不良姿勢は徐々に構築をされてゆきます。
では、その筋肉のアンバランスの原因は何でしょうか。
人間の姿勢は様々な影響を受けて変化をしてゆきます。
①生活習慣
普段の環境や姿勢が影響を与えます。
虚弱高齢者であれば、ベッド上・車椅子上での姿勢などです。
②加齢による変化
加齢によって、筋力低下・椎間板の変性がおこり徐々に脊柱のアライメントが変化してゆきます。
忘れてはならないのが呼吸機能です。
呼吸機能が低下すれば、不良姿勢につながります。
さらに不良姿勢は呼吸機能を低下させるので、悪循環が形成されてしまいます。
③精神面
痛みや恐怖感などがあると、人は自然と身体を固めてしまいます。
特に交感神経系が優位な状態が持続していると筋肉の緊張が抜けなくなってしまいます。
④骨折などのイベント
脊柱圧迫骨折を起こすと、どうしても脊柱が屈曲方向に変形してしまいます。
退行性変化による脊柱の変形+圧迫骨折による変形によって、構造的に修正が困難な状態に陥っている虚弱高齢者も少なくありません。
猫背・顎上がり姿勢と舌骨上筋群の関係
姿勢と嚥下の関係性を体感しよう
上記したように、猫背・顎上がり姿勢になると嚥下筋が働きにくくなり、結果として誤嚥するリスクが高まります。
まず、下の図でどっちが嚥下動作がしやすいか実際に試してみましょう!
おそらく、左図の猫背・顎上がり姿勢で行った時のほうが「飲み込みづらさ」を感じたのではないでしょうか。
嚥下動作をする時に少し力が必要な感じがしたかもしれません。
これは姿勢と舌骨上筋群の関係性が影響をしています。
舌骨上筋群と嚥下の関係性
嚥下の咽頭期において、舌骨上筋群は舌骨・喉頭を前上方へ挙上し、食道入口部を開大させ食塊を食道へ円滑に移動させることに関与しています。
つまり、舌骨上筋群が機能不全を起こすと、食道入口部開大不全を生じて咽頭残留や誤嚥などの咽頭期嚥下障害を生じるリスクが高まります。
この点についての詳細は下記記事で説明をしていますのでご参照ください。
猫背・顎上がり姿勢による下顎のアライメント変化
猫背・顎上がり姿勢になると、舌骨上筋群が嚥下動作の際に機能しづらい状態となります。
これは胸郭・頚部のアライメント変化の影響を受けています。
①椎後弯・下位頚椎が屈曲・上位頚椎が過伸展した姿勢になると、舌骨下筋群が伸張をされます。
②これにより、舌骨下筋群が舌骨が下方に牽引するので舌骨を介して舌骨上筋群も引っ張られる状態になります。
③舌骨上筋群が引っ張られれば、下顎が下方・後方に引かれるので開口位になりやすくなります。
①〜③の過程を経て、閉口がしづらいアライメントが形成されてゆきます。
猫背・顎上がり姿勢と舌骨上筋群の機能不全
猫背・顎上がり姿勢により、下顎のアライメントが変化して閉口がしづらくなります。
食事で物を口にいれるときはよいのですが、嚥下動作時には閉口する必要があります。
この姿勢で閉口をしようとすると、舌骨上筋群は伸張位になります。
舌骨上筋群は本来の長さよりも伸張された状態になりますので、結果的に「長さー張力曲線」の関係性から活動張力が低下してしまいます。
健常者では頑張れば嚥下動作は問題なく可能です。
しかし、体力の低下した高齢者などの場合には余裕がないので嚥下動作時に必要な舌骨上筋群による喉頭挙上が不十分になると考えられます。
よって、
「不良姿勢」は「嚥下動作時の舌骨上筋群の機能不全」を引き起こす
ということが説明できると思います。
参考にした教科書・文献
・南谷さつき:「嚥下と姿勢および呼吸の関係」理学療法学 第41巻 第1号 (2014年)
・三枝英人:舌骨上筋群の解剖 2010年
・筋骨格系のキネシオロジー