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骨盤底筋群(こつばんていきんぐん)とは?
骨盤底筋群(こつばんてきんぐん)とは、骨盤の下側に位置する一部の筋肉の総称です。
骨盤の下側に位置しているので、その上にある膀胱や腸などの内臓が重力で下がりすぎないように筋膜や靭帯組織と共同してハンモックのように支えています。
骨盤底筋群は細かい筋肉で目立たない場所にあるので普段は意識をすることが少ないですが、とても重要な役割を果たしているのです。
骨盤底筋群の機能解剖
①第1層:臓側骨盤隔膜
骨盤腔内の臓器の表面を覆い、臓器間を埋める結合組織のこと。
②第2層:骨盤隔膜
主に肛門挙筋と尾骨筋からなる。
1)肛門挙筋
・前部:恥骨尾骨筋、恥骨直腸筋
・後部:腸骨尾骨筋
2)尾骨筋
③第3層:尿生殖隔膜
恥骨結合と両側の坐骨結節との間にあり、上下の筋膜層からなり、その間に浅および深会陰横筋、球海綿体筋、坐骨海綿体筋、尿道括約筋がある。
骨盤底筋群の特性と運動機能
筋肉の特性
骨盤底筋群は臓器を支持していて、休息時にも常に活動をしています。
骨盤底筋群は姿勢保持筋としての重要な役割も果たしているからです。
姿勢保持をするための筋肉に求められるのが「持続的に働く」ということです。
筋肉の線維には遅筋線維と速筋線維の2つに大別されますが、遅筋線維には姿勢保持に重要な比較的弱い力で持続的に働かせる作用があります。
骨盤底筋群はこの遅筋線維の割合が多いという特性があります。
・骨盤底筋群に占める遅筋線維の割合は恥骨尾骨筋の前方部の67%、後方部の76%
・尿道周囲の肛門挙筋の95%と報告されており、高い割合で姿勢保持として働く遅筋線維で構成されている。
*引用文献:田舎中真由美 骨盤底筋群機能障害に対する評価とアプローチ
骨盤底筋群の運動機能
骨盤底筋群の運動機能は2つに大別されます。
①排尿・排便動作のコントロール
②姿勢保持(体幹のインナーユニットとしての作用)
排尿・排便においては恥骨尾骨筋、挙筋板(恥骨尾骨筋の後部線維と腸骨尾骨筋)、深部肛門括約筋の縦走線維が相互に作用し排出口を閉鎖及び開放している。
*引用文献:田舎中真由美 骨盤底筋群機能障害に対する評価とアプローチ
骨盤底筋群は単独で働くことは少なく、腹横筋や横隔膜などの他のインナーユニットを構成する筋肉と協調しながら働くとされています。
【骨盤底筋群と腹横筋】
姿勢を安定させるために、四肢の動きの開始前に先行的に腹横筋と協調して作用する。
腹横筋が姿勢保持のために上肢を挙げる前に先行的に作用するのは予測的姿勢制御の反応は有名ですが、それと同時に骨盤底筋群も作用していることが確認されています。
【骨盤底筋群と横隔膜】
呼吸運動の際には横隔膜と協調して作用する。
①吸気
肺に空気が入ってゆくので、結果として腹部は膨らむ。
・横隔膜:求心性収縮して下方(足側)に下がる
・骨盤底筋群:遠心性収縮して伸張位。下方(足側)に下がる
②呼気
肺から空気は出てゆき、腹部は凹んでゆく。
・横隔膜:遠心性収縮して上方(頭側)に上がる
・骨盤底筋群:求心性収縮して上方(頭側)に上がる
呼吸運動にともなって、腹腔内圧が変化を上下に移動するように骨盤底筋群と横隔膜がお互いに収縮したり弛緩をしたりしてバランスをとっています。
「吸気では同時に下方に移動する」
「呼気では同時に上方に移動する」
まずはこれをイメージをするようにしましょう!
骨盤底筋群の機能が低下するとどうなる?
骨盤底筋群の機能低下の原因
【骨盤底筋群の機能低下の危険因子の中でエビデンスがあるもの】
・分娩
・加齢
・肥満
特に分娩時の影響が大きい。
経膣分娩において胎児が産道を通過する際に、なんらかの骨盤底支持組織の弛緩や損傷は不可避である。MRIによる検討では、初産婦の20%に恥骨尾骨筋の損傷を認めたとの報告もある。
分娩時における危険因子は、分娩回数と4000g以上の巨大時、分娩2期の30分以上の遷延である。
上記以外にも、分娩だけに限らず、妊娠の時点でホルモンの影響で骨盤輪が緩んだり、胎児の重みで骨盤底筋群は引き伸ばされて機能低下を起こす可能性も。
また、産後十分な機能回復を待たずに誤った体の使い方を繰り返すことで、数年後に骨盤底筋群の機能不全が出現するケースもあります。
骨盤底筋群の機能低下による症状
骨盤底筋群の機能低下は上記のような女性に出現しやすい傾向にあります。
では、機能低下がおきるとどうのような症状がでるのでしょうか?
【主な症状】
・尿失禁
・性器脱
・腰痛
骨盤底筋群と尿失禁の関係
尿失禁は、直接生命に関わる問題ではないが、生活に支障をきたすことが多くQOL(生活の質)に影響を及ぼす疾患の一つとして問題視されています。
特に女性にとって問題となりやすい尿失禁は、腹圧負荷時に不随意に尿がもれる腹圧性尿失禁、尿意切迫感と同時または直後に不随意に尿がもれる切迫性尿失禁です。
骨盤底筋群は、排尿・排便においてその排泄口を閉鎖および解放する働きをしていますのでこの機能が低下することで、「おしっこが我慢できずに漏れてしまう。」という状況が起こります。
骨盤底筋群と腰痛の関係
骨盤底筋群の機能が低下すると腰痛を引き起こす原因となります。
なぜでしょうか?
その理由は体幹の安定性・姿勢保持との関係性にあります。
体幹の安定性や姿勢保持に必須なのが、体幹のインナーユニットです。
インナーユニットは横隔膜・腹横筋・多裂筋・骨盤底筋群によって構成されています。
これらの筋肉がバランスよくタイミングよく協調的に働くことで、適度な腹腔内圧を保つことができ腰部に負担のかからない姿勢や動きをつくることができるからです。
骨盤底筋群が機能不全を起こすと、腹腔の中での骨盤底筋群による下側からの支えが不十分になってしまうので腹腔内圧が維持できなくなります。
骨盤底筋群の機能を回復させるには?
骨盤底筋群が機能低下をすると、尿失禁や腰痛など様々なトラブルが起こりやすくなります。
では、機能低下をした骨盤底筋群を回復させるにはどうしたらよいでしょうか?
骨盤底筋群は普段意識することはあまりなく、「骨盤底筋群を鍛えましょう!」と言われても働かせる感覚自体が最初はわからないと思います。
細やかなインナーマッスルですので適切にトレーニングするにはややコツが必要なのです。
まずは呼吸練習から始めることをお勧めします。
上記をしたように、骨盤底筋群は横隔膜と呼吸運動の際に協調的に働いていますので呼吸運動が適切に行えるようになるだけで結果的に骨盤底筋群を働かせることに繋がるからです。
難しく考える必要はありません。
腹式呼吸をリラックスして行いましょう。横隔膜を働かせることが大切です。
その後、骨盤底筋群の個別の収縮練習をしたり、手足の運動をしながら骨盤底筋群を持続的に働かせる応用的な移行してゆきます。
段階的にトレーニングをしてゆけば、徐々にその感覚がわかってくるはずです。
これらの一連の段階的なトレーニングは一人では難しいので、最初は指導者の下で行うと効果的に行うことができます。
ピラティスは骨盤底筋群を効果的に鍛えることができる
ピラティスいうエクササイズが骨盤底筋群のトレーニングに効果があるとして注目をされています。
ピラティスは呼吸方法を大切にしており、段階的に骨盤底筋群をはじめとするインナーユニットの機能を高めることにおいて非常に有効なトレーニング方法です。
リハビリから生まれた身体に負担をかけずに行うことができるエクササイズなので、若い人から高齢者まで幅広く適応します。
まとめ
骨盤底筋群の基礎的な機能解剖から、その機能低下による起こるトラブルとアプローチの手段までを解説しました。
特に注目されているのが出産後の女性の骨盤底筋群の機能低下です。
出産によって確実に骨盤底筋群はダメージを受けて機能低下をします。
直後にその影響は受けない場合でも、数年後に起こるトラブルの原因になる可能性が高いのです。
早い段階で骨盤底筋群の機能回復を図っておくことがとても大切です。
骨盤底筋群のトレーニングの一つとしてピラティスというエクササイズはとても有効と考えられています。
骨盤底筋群に対するアプローチとして対象となるのは、第2層の骨盤隔膜内の筋群です。