舌骨上筋群・舌骨下筋群の基本的な解剖。【嚥下動作の関係性について】

舌骨上筋群(ぜっこつじょうきんぐん)とは?

舌骨上筋群とは、顎舌骨筋・顎二腹筋・茎突舌骨筋・オトガイ舌骨筋の総称です。

舌骨上筋群

舌骨上筋群

嚥下動作のリハビリテーションにおいて、重要とされている代表的な筋肉です。

【主要な作用】
①下顎を下方に引く
②嚥下の際に喉頭を引き上げる

 

起始・停止・神経支配・作用

  起始 停止 神経支配 作用
オトガイ舌骨筋 下顎骨(下オトガイ棘) 舌骨 舌下神経を経由する第一頸神経の前枝 ・嚥下時に舌骨を前方に牽引する  
・開口を補助する
顎舌骨筋 下顎骨(顎舌骨筋線) 舌骨 顎舌骨筋神経

・嚥下時に舌骨を前方に牽引する  
・咀嚼時に開口と側方運動を補助する

顎二腹筋  下顎骨(二腹筋線)  舌骨  顔面神経 ・ 嚥下時に舌骨を挙上させる。
・下顎骨の引き下げを補助する。
 茎突舌骨筋  側頭骨(茎状突起) 舌骨  顔面神経  ・ 嚥下時に舌骨を挙上させる。
・下顎骨の引き下げを補助する。

 

 

舌骨上筋群の嚥下動作時の役割

嚥下の咽頭期において、舌骨上筋群は舌骨・喉頭を前上方へ挙上し、食道入口部を開大させ食塊を食道へ円滑に移動させることに関与している。

 

名前
【舌骨上筋群の機能が不十分だと?】
食道入口部開大不全を生じて、咽頭残留や誤嚥などの咽頭期嚥下障害を生じるリスクが高まります。
そのため、舌骨上筋群が適切に機能することが重要です。

 

 

舌骨下筋群(ぜっこつかきんぐんとは?)

舌骨下筋群とは、甲状舌骨筋・胸骨舌骨筋・肩甲舌骨筋・胸骨甲状筋の総称です。

舌骨下筋群

舌骨下筋群

舌骨下筋群は脳神経ではなく頸神経ワナC1〜C3の神経支配を受けている。
このため、脳卒中により運動麻痺が生じることはほとんどない。
加齢・努力性呼吸時・不良座位姿勢において短縮を生じやすい。

 

起始・停止・神経支配・作用

  起始 停止 神経支配 作用
甲状舌骨筋 甲状軟骨 舌骨 舌下神経を経由する第一頸神経の前枝 ・舌骨を引き下げて固定する。
・嚥下時に喉頭を引き上げる
胸骨舌骨筋 胸骨柄と胸鎖関節 舌骨

頸神経叢の頸神経ワナ(C1~C3)

・舌骨を引き下げる(固定する)
・発声や嚥下の最終段階で喉頭を舌骨を引き下げる。

肩甲舌骨筋  肩甲骨(肩甲切痕より内側の上縁)  舌骨 頸神経叢の頸神経ワナ(C1~C3) ・舌骨を引き下げる(固定する)
・発声や嚥下の最終段階で喉頭を舌骨を引き下げる
胸骨甲状筋 胸骨柄(後面) 甲状軟骨 頸神経叢の頸神経ワナ(C1~C3) ・舌骨を引き下げる(固定する)
・発声や嚥下の最終段階で喉頭を舌骨を引き下げる

 

 

食事・嚥下動作における舌骨上筋群

上記のように舌骨上筋群は嚥下動作(特に咽頭期)において重要とされています。

咽頭期とは?

*咽頭期は図の真ん中にあたります。

嚥下動作の過程 版権:  / 123RF 写真素材

嚥下動作の過程
版権: / 123RF 写真素材

しかし、注意すべきは舌骨上筋群は咽頭期の喉頭挙上にのみ作用しているわけではないということです。

 

食事動作の過程と舌骨上筋群

食事動作の過程

食事動作の過程

人は食事動作をする際は下記の動作の反復となります。
①食べ物を口に運ぶ
②口を開ける(開口)
③咀嚼する
④飲み込む(嚥下動作・閉口している)

舌骨上筋群は下顎骨の下制させることで開口作用もあるので、食事動作中に絶えず働いていることになります。

 

舌骨と下顎骨の支点の切り替えをしている

食事動作の際にはせわしなく舌骨上筋群が作用していますが、このときに支点の切り替えをおこなっています。

【舌骨上筋群】
起始部:舌骨
停止部:下顎骨

舌骨上筋群の作用 版権:  / 123RF 写真素材

舌骨上筋群の作用 版権: / 123RF 写真素材

開口動作:舌骨を支点として、舌骨上筋群が下顎骨を下制させる。
嚥下動作:下顎骨を支点として、舌骨上筋群が舌骨を前上方に挙上させる。

・ヒトでは舌骨が下顎骨・喉頭と距離を保ち、舌骨の自由な運動域が保たれていることで、呼吸・開口・咀嚼・嚥下・会話、さらには笑い・歌唱などの機能とこれらの連続性が実現されている。

・ヒトの舌骨は人体の中で、隣り合う骨もしくは軟骨と唯一、関節の形態を呈さない中に浮いた状態の極めて特異な存在である。

【引用】
・三枝英人:舌骨上筋群の解剖 2010

このようなことから舌骨上筋群がタイミングよく、適切に機能するためには、単に舌骨上筋群の筋力を高めればいいというわけではないことがわかります。

舌骨の位置というのも非常に重要となってきます。

 

 

舌骨上筋群と舌骨下筋群の関係

舌骨下筋群の過剰作用による問題

嚥下動作において舌骨の位置が重要となりますが、舌骨上筋群が舌骨を上方に引き上げる作用をもっているのに対して、舌骨下筋群は引き下げる作用を持っています。

舌骨下筋群は舌骨を下に引くことで、舌骨のある程度の安定性を提供していると考えられます。

一方で、舌骨下筋群が過剰に収縮してしまうことで舌骨を引き下げすぎてしまい舌骨上筋群の作用を阻害してしまう場合があるため注意が必要です。

これが嚥下動作を阻害し、誤嚥を引き起こす要因にもなります。

つまり舌骨下筋群は姿勢から受ける影響も強く、短縮・過剰収縮をしてしまいがちですので、不必要な緊張を抑制させることがポイントとなります。

 

 

肩甲舌骨筋に着目しよう

舌骨下筋群は甲状舌骨筋・胸骨舌骨筋・肩甲舌骨筋・胸骨甲状筋の総称でした。

その中で肩甲舌骨筋に着目をしてみましょう。

  起始 停止 神経支配 作用
肩甲舌骨筋  肩甲骨(肩甲切痕より内側の上縁)  舌骨 頸神経叢の頸神経ワナ(C1~C3) ・舌骨を引き下げる(固定する)
・発声や嚥下の最終段階で喉頭を舌骨を引き下げる
肩甲舌骨筋 版権:  / 123RF 写真素材

肩甲舌骨筋 版権: / 123RF 写真素材

肩甲舌骨筋は起始が肩甲骨であるということがポイントです。

肩甲骨と連結をしているということは、肩甲骨の位置の変化によって舌骨の位置が影響をうけるということです。

嚥下機能のためには、肩甲骨〜上肢の位置にも注意をすることが大切であるということがわかります。

【肩甲舌骨筋と誤嚥の関係】
不良姿勢で肩甲骨の位置が不良
      ↓
肩甲舌骨筋が過剰に緊張したり・伸張されてしまう
      ↓
舌骨を引き下げる作用が強くなる
      ↓
嚥下動作の際の舌骨の挙上を阻害する
      ↓
 誤嚥するリスクが高まる

 

 

姿勢と舌骨上筋群の関係を説明しています!

姿勢が悪いとなぜ誤嚥しやすくなるのか?【猫背姿勢と舌骨上筋群の関係】

2017.02.09

 

 

参考にした教科書・文献

・三枝英人:舌骨上筋群の解剖 2010
・脳卒中に対する標準的理学療法介入―何を考え、どう進めるか?
・筋骨格系のキネシオロジー
・プロメテウス解剖学アトラス 頭部/神経解剖

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