胸郭は呼吸運動をするための呼吸器でもあり、体幹の動きを円滑にするための運動器でもあります。
理学療法士は呼吸器・運動器の面からも胸郭についてアプローチをすることが必要です。
個人的には臨床においてどんな疾患でも胸郭に着目をするようにしています。
ピラティスにおいても胸郭は非常に重要視されている部分です。
ピラティスの基本原則として呼吸があることや、ピラティスの目指すしなやかな脊柱の一つ一つの分節的な動きを引き出す上で胸郭は避けて通れない部位だからです。
※参考記事:ピラティスとは?
一般の方は腰椎や頚椎は動かすのに胸郭を動かす運動はあまり馴染みがありません。
しかし、だからこそ腰痛を代表とする様々なトラブルが生じるです。呼吸器疾患も然りです。
胸郭を動かす必要があるのです。
胸郭を動かすためには、胸郭をイメージできるとよいです。
今回はまず馴染みの少ない胸郭・胸椎の基本的な解剖や特徴について図を多く入れてまとめてみたので参考になれば幸いです。
胸椎・胸郭の特徴
脊柱は頚椎・胸椎・腰椎・仙骨で構成されています。
その中で胸椎は12個と椎体の多い部位です。
脊柱には本来人が効率よく動きができるように生理的湾曲(S字カーブ)があり、胸椎は通常後弯しています。
高齢者にかかわらず若い人でも猫背になっている人が少なくありません。
これらの人の多くは元々後弯している胸椎がより後弯が強くなって固まってしまっている状態です。
胸椎が硬い人は本当に多いです。
脊柱の中で12個も椎体がある部位で全体でみたら大きな可動性をもっていそうなのに、なぜ硬くなりやすいのでしょうか?
胸椎は他の椎体と違って肋骨と関節をもっているという点が特徴的があることが要因の一つです。
胸椎には肋骨がついている
胸郭の内側には心臓や肺などの大切な臓器があり、それらを肋骨で覆って保護する必要があります。
胸椎には肋骨と関節をもっており、12本の肋骨が各椎体から左右についています。
身体の前面(お腹側)で一番下で触れられるのは第10肋骨。
第11と第12肋骨は浮遊肋骨で背中側〜腹側部で触れることができます。
胸椎が肋骨と関節を構成していることで、各関節の可動域低下が結果として胸郭全体の可動性低下につながります。
これらの関節を理解しておくことが大切です。
【肋骨との関節面】
①前面要素(腹側)
胸の前にある胸骨と肋骨が関節を構成しています。
肋軟骨が広い範囲を占めていて、胸郭の可動性を大きなものにしています。
しかし、肋骨軟骨は年齢とともに柔軟性を失ってくるため徐々に可動性が低下してきてしまいます。
②後面要素(背側)
椎間関節と肋椎関節が関与している。
胸郭の動きは肋椎関節の運動軸の向きに影響を受けていて、
上位と下位で動き方が異なる点がポイントです。
・上位胸郭:胸郭が前後に広がる Pump-Handle motion
・下位胸郭:胸郭が左右に広がる Bucket-Handle motion
椎間関節と肋椎関節
1)椎間関節
椎間関節は上下の関節突起からなっています。
特徴的なのが関節面が水平面に対して60°・前額面に対して20°傾いているため
運動方向は回旋可動域が大きくなっていることです。
一方で腰痛は関節面の向きからして、回旋可動域は非常に狭い構造です。
腰を捻る動作は腰椎にとって構造的にストレスであり、腰痛の原因となります。
各回旋動作において、「腰を捻るのではなくて胸を捻ることを意識する」必要性があるのはこのためです。
詳細については下記記事をご参照ください。
☞関連記事:胸椎の回旋と伸展の重要性〜腰痛との関係性について〜
【各椎体の回旋角度】
・頚椎7個の合計回旋角度:45~50°
・胸椎12個の合計回旋角度:35°
・腰椎5個の合計回旋角度:5°
※参考文献「カパンディ関節の生理学」
2)肋椎関節
肋骨と胸椎の関節は2箇所あります。
①肋骨頭関節
②肋横突関節
2つの各関節面にも滑液腔があり、呼吸運動をするたびに関節運動を繰り返しています。
この関節運動が低下すれば十分な呼吸運動ができなくなってしまうことがイメージできるかと思います。
胸椎の触診の仕方
胸椎は12個もありますから可動性が低下している部位も人それぞれです。
徒手で治療する場合には原因部位を特定することが必要ですので、触診できたほうがいいです。
胸椎は背中から触診する際にはポイントがあります。
胸椎は棘突起が下斜方向に長い形をしています。特に中位の胸椎は特徴的な形をしています。
図では胸椎7番目の触診の場合を示しています。
7番目の棘突起を見つけた場合、椎体はその上側に3横指の場所に位置しています。
肋椎関節を治療する場合、横突起を探す必要がありますが横突起は棘突起から外側に2横指の場所に位置しています。
胸郭の柔軟性を高めるには?
胸郭はどうしても硬くなりがちな部位です。
胸郭の柔軟性低下は様々なトラブルの原因になりますので、いかに胸郭の柔軟性を維持・高めるか?ということは非常に重要です。
胸郭の柔軟性を高める運動として「ピラティス」というエクササイズがおすすめです。
ピラティスをすることで確実に身体は変わってゆきます。
☞関連記事:ピラティスとは?その効果は?
まとめ
胸椎・胸郭の基本的な解剖と特徴についてまとめてみました。
胸郭は胸椎と肋骨で構成されており、他の脊柱の部位と異なる特徴があります。
椎間関節・肋椎関節それぞれが相互に作用しており、どちらかが硬くなれば胸郭全体の可動域低下に影響を及ぼします。
また、胸椎の本来持っている可動域を理解しておくことが大切であり回旋動作は腰椎ではく胸椎から引き出すことが必要です。
胸椎の回旋動作を引き出すためには徒手による治療も効果的ですが、抗重力位で骨盤〜腰椎のニュートラルを保持できることなど他の姿勢保持筋の活動も必要です。
【参考資料】
・井上仁:「胸郭の運動学」理学療法学 25巻12号 2008年 12月
・画像引用:http://www.bartleby.com/107/
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