腰痛の再発予防・リハビリテーションにおいて、重要視されている腹横筋。
腹横筋のトレーニングといえば、「ドローイン」が有名ですよね。
ドローインの賛否両論あって、しないほうがいいという意見もありますが私は腹横筋の収縮の再学習の面では必要な方法であると考えています。
「ドローイン」というのは、呼吸に合わせて下部腹部を引っ込めて、腹横筋の収縮を促す手段です。
もちろん、ドローインは大切なトレーニング方法であると考えられますが正確に行えなければ意味がありませんし、どうしても動作として地味であり継続性の面でも困難な点があります。
このドローイン以外に何か腹横筋をトレーニングする方法はないのでしょうか?
今回はピラティスの原理原則にある軸の伸長(エロンゲーション)という概念を応用して考えてみました。
目次
腰痛予防にはコアトレーニングが大切である理由
腰痛に対しては体幹に対するコアトレーニングが大切である!
というのは様々な雑誌などにも取り上げられており一般的にも周知されてきているかと思います。
そもそもなぜ腰痛予防にコアトレーニングが必要なのか?という点についてです。
腰部というのは構造的に不安定であり、各動作においてストレスの受けやすい場所です。
代表的なのが「物を持ち上げる」・「身体を捻る」などの動作です。
これらの動作の際に過剰に腰部にストレスがかかると腰椎やその周囲の筋肉などの軟部組織が損傷してしまうことで腰痛が出現し、繰り返していると椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症など手術が必要な病態に発展してしまうこともあります。
つまり、腰部の安定性を保った上で動作をする必要があります。
また、StabilityとMobilityの考え方で言い換えると腰部はStabilityが求められる部位です。
※参考記事:なぜピラティスは腰痛に対するリハビリとして効果があるのか?
この腰部の安定性を高めるために、コアトレーニングといった体幹部のインナーマッスルをトレーニングする方法が推奨されているわけです。
腰痛予防には腹横筋が大切とされる理由
腰部の安定性を高めるためのコアトレーニングといっても、
それらを構成する筋は横隔膜・多裂筋・骨盤底筋群・腹横筋・腸腰筋などがあります。
これらの筋はすべて重要で、どの筋が一番大切だとかそういうことではありません。
しかし、その中でも腰痛予防において腹横筋に着目がされることがよくあります。
腹横筋というのは、腹部の最深層に位置する筋肉であり筋繊維は水平方向へ走行し、深部の筋肉によるコルセットを構成しています。
本来、腹横筋は四肢の運動を開始する前に腰部を安定させるために先行的に収縮をするという働きがあります。
この働きを「予測的姿勢制御(anticipatory postural adjustments: APA)」とも言います。
腰痛患者はこの動作開始前の腹横筋の先行的な収縮するタイミングが通常よりも遅くなっているということが言われていて、その結果腰部の安定性が得られない状態で動作を行ってしまうことで腰椎部に過度なストレスを受けてしまうのです。
腹横筋のトレーニング=ドローイン?
腰痛患者は腹横筋の機能不全を起こしていることが多いです。
また、腹横筋を使わないことを身体が学習してしまっている「不使用の学習」という状態になってしまっている可能性もありまずは腹横筋の収縮自体を再学習させてゆくというアプローチをすることは必要であると思います。
冒頭でも述べましたが、一般的に腹横筋のトレーニング=ドローインというのが有名です。
ドローインというのは、「お腹を引っ込める」「下腹を凹ませる」などといった言語教示によって腹横筋の収縮を促すトレーニング方法です。
ドローインができたら今度は、その状態を維持したまま四肢の分離運動などにつなげてゆきます。
ただし、元々腹横筋が機能不全を起こしていた腰痛患者が適切にドローインをすることはなかなか難しいと思うのです。
ドローインをする際に呼気の呼吸補助筋である腹部筋を使いますが、腹直筋や外腹斜筋などを代償的に使ってしまい腰椎の中間位を保持できずに骨盤後傾してしまうケースも少なくありません。
正しいドローインをできるようにするのは最初は結構難しいことなんのです。
うまくできていないと一生懸命ドローインの練習をしていたつもりが、
結果的にアウター優位での固めたような体幹となってしまうことにもなりかねません。
腹横筋の活動を引き出す姿勢・条件とは?
ドローインも大切なトレーニング方法ですが、それ以外に腹横筋を働かせる方法はないのでしょうか?
いろいろと検索をしていたところ非常に興味深い文献がありましたので
ご紹介させていただきます。
【参考文献】
犬飼康人・稲村一浩 「超音波診断装置を用いた腹横筋の機能評価〜腹横筋の活動が増加する姿勢・条件の検討〜」
大阪府理学療法士会誌第41巻2013年
この研究は姿勢変化に伴う腹横筋の働きを超音波にて評価をしたものです。
計測条件は4つ
①背臥位
②立位
③背伸び
(立位で「指先が天井に近づくように身体を伸ばしてください」という指示で最大に脊柱・下部体幹を鉛直方向へ伸張するようの指示。
*過剰な股関節・体幹伸展位とならいないように注意)
④ぶら下がり
(足底が接地しない状態で背伸び)
この中で最も腹横筋の高い活動が得られたのはどの姿勢でしょうか?
結果は③背伸びであったと報告されています。
また、背伸びの姿勢では腹横筋の活動と同時に多裂筋の活動も増加していたことも報告しています。
・腹横筋の活動性の改善を目的に理学療法を行ってゆく際には、他動的に脊柱・下部体幹を伸張するようなアプローチではなく、能動的に抗重力方向へ脊柱・下部体幹を伸張してゆく活動を促す必要がある。
・腹横筋は単独で姿勢変の中で活動性が増加するのではなく、多裂筋など体幹伸展筋と共同的に収縮することで下部体幹の安定性に関与する。
能動的に脊柱を伸張させるような動きを引き出すことが腹横筋の活動を引き出すことにつながるということでした。
これは、ピラティスの原理原則における「軸の伸張(エロンゲーション)」の効果を支持する研究結果であると考えられます。
軸の伸張(エロンゲーション)とは?
ピラティスでは常に軸の伸張(エロンゲーション:axial elongation)
という意識をしながら、エクササイズを行います。
これが非常に大切なポイントで、過剰なアウターマッスルの活動を抑制した理想的な抗重力活動を引き出すのに有効です。
端座位で行ってみるとわかりやすいと思います。
骨盤後傾したよくある不良姿勢の状態の人に対して、頭部の中央あたりを長軸方向に軽く指で圧迫してみましょう。
この圧迫に対して座位の人は潰されないように、天井に向かって伸びてゆくような意識で押し上げるようにしてみてください。
するとどうでしょうか?
自然と骨盤の前傾する活動が起こり、腰椎の生理的な前弯も確保できているかと思います。
*過度な前弯になってしまった場合などうまく誘導できなかった場合には頭部の圧迫する場所を変えてみるとよいです。
これがピラティスで大切にされている考え方であるエロンゲーションです。
この能動的に上下に伸びてゆく意識をもつことで、
骨盤・腰椎部の中間位(ニュートラル)をつくることができます。
骨盤・腰椎部の中間位を保持するためには、コアユニットがバランスよく適切に働く必要があり結果的に腹横筋の活動も高めることができると考えられます。
さらに、エロンゲーションした状態を保持した状態で呼吸をしてみると
呼気の際にお腹がぺしゃんこになるような感覚が得られます。
つまりエロンゲーション+ドローインをすることでより効果的に腹横筋の促通ができると考えられます。
まとめ
腰痛予防に対しては腰部の安定化を高める必要があります。
腰痛患者の多くは腹横筋の機能不全を起こしており、腹横筋の個別でのアプローチが必要な場合があります。
腹横筋のトレーニング方法としてはドローインが有名です。
しかし、ドローインが正確にできない場合になかなかうまく腹横筋の反応を高められないことがあります。
ピラティスの重要視している軸伸張(エロンゲーション)という能動的に脊柱を上下に伸ばしてゆく意識は腹横筋の反応を高める有効な姿勢であると考えられます。
臨床的にも応用しやすく簡単にできますので、まずはぜひ一度自身の身体で体感をしていただくことをお勧めします。
【参考書】
・中村尚人:「コメディカルのためのピラティスアプローチ
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